『ソニックCD』を作り終えたのが、確か入社3年目でした。
その後、アメリカから帰ってきた中さんが新しいチームを作ることになった時、ソニックタイトルのキャラクターデザインを手がけたことを評価してもらって、そこに呼ばれたんです。
新生ソニックチームですね。
で、「何を作ろう?」という話になり、中さんからは「飛べない鳥・やがて飛べるようになる」っていう御宣託めいたキーワードがあって、発足したての数人のプロジェクトチームとしてそのビジョンに向かって具体像を模索し始めたのが、ナイツ製作の始まりでした。
このへんのくだりは、他の人が詳しく語るかもしれませんけど、時として早朝まで続くミーティングを重ねるうちに、それが「人間と空飛ぶキャラクターの融合」っていうナイツの基本形となって姿を現してきて、具体的なゲーム性を練る一方、我々デザイナーは社内プレゼンに向けて、世界観やキャラクター製作に本格突入して行きました。
学生のときから夢に纏わる本、主に小説ですが、好んで読んでいたので、夢の世界の世界観については、まあ割としっかりした輪郭のものを持っていたんです。
そのうちのいくつかは、実際ナイツの世界の構造や冒険の意義などに反映されています。
ただ、学生の時って、やたら物事を小難しくして自己満足してしまう傾向があって、当初考えていたものは、シュールすぎちゃってそのまま使えるようなものではありませんでした。
それを商品として通用するようなもの、100万人に受け入れられるようなものに作り上げていくことの重要性を、この時先輩や同僚からすごく教わった気がします。
ナイツのデザインは、ディレクターが担当しました。
「これからピエロのブームが来る!」という大島流ひらめきをベースに、ピエロの持つ奇抜さや楽しさと、裏腹にもつ哀愁などの要素を、明るくも恐ろしいこの夢の世界に溶かし込んで出来上がったのが、このキャラクターですね。
主人公キャラが決まると、プロジェクトも加速します。
我々デザイナーも、覚悟が決まるというか、「よし、こいつと一緒に最後までいくぞ」という気持ちになったものです。
私がデザインを担当したのは、エリオットとクラリス、ワイズマンやボスをはじめとするナイトメアン達でした。
エリオット・クラリスをデザインするにあたっては、ディレクターからプロポーションについての指示がありました。頭身、腕や脚の細さから、それこそクラリスの胸の大きさに至るまで(笑)。
今から見るとちょっと頭が大きいかな、という印象を受けますが、これも時代の移り変わりでしょうか。
実は、今回のリニューアルにあたり、少し頭を小さくしています。
旧作をお持ちの方は、是非比べてみてください。
コスチュームのデザインは、かなり自由にさせてもらいました。
学校に通っている年齢設定でしたので、私学の制服っぽいニュアンスで、でもカジュアルに。時代設定から、ちょっと未来感を入れたデザインにしています。
世界観同様、小難しくデザインしないよう気をつけました。
ですから、見た目は至って普通です。
でも、それで良いと思います。
彼らは別にスーパーヒーローでも何でもなくて、どこにでも居るただの少年・少女でないと、伝えるメッセージが違ってしまいますからね。
このあたりが、エリオット・クラリスのキャラクターデザインの肝だったと思います。
一方、そういった意味では、ナイトメアン達は正反対。
如何に個性を際立たせるかがテーマになっていました。
ワイズマンは、ズバリ神。
全能であり、夢の世界の全てである存在ということで、体も規格外に大きいですが、デザイン的にもスケール感を出すため、頭部は世界樹的なイメージで空間的拡がりのある形、体は逆に、何もないことで無限の存在感を出すって感じでやりました。
瞑想しているかのように、顔からは目を省いて、ちょっと宗教的なニュアンスを取り入れています。仏像に見られる、特徴的な手の表情や光背のイメージを借りて、円形に並べた手のそれぞれに目を付けてみたりもしています。
新作の『ナイツ〜星降る夜の物語〜』でワイズマンのリニューアルをした際には、法衣を纏わせ、光背のような魔方陣のようなパーツを追加しました。
ネタに困らない、作り手から見てもなかなか良いキャラクターです。
個性で言えば、下っ端のボスキャラ達も負けてないですね。
形もモチーフも皆バラバラで、強いて言えば色使いのハデさでまとまっているくらい。
それぞれが独自の世界を持っていてバラエティーに富んでおり、ゲーム性もそれぞれ全く異なって、デザインしていても、実際に遊んでいても非常に楽しい、良い仕事でした。
まだまだ語ることは尽きないんですが、自分に求められているのはきっとキャラ系の話なんだろうということで、他の人にお任せすることにします。
自分が初めて、キャラも世界も何もない状態から製作に携わったこのゲームが、こんなにも長く沢山の人に愛されているのはとてもうれしいことです。
エンディングでムービーを観た時は泣けたっけなあ。
楽しんでいただければ幸いです。