第1回
セガサターン版『NiGHTS』メインプランナー 飯塚 隆
(現・セガスタジオUSA)

 『NiGHTS into dreams...』は、当時まだ企画者として経験の浅かった私に、ゼロからゲームを創造することの”大変さ”と”楽しさ”、そして”喜び”を教えてくれた、とても思い出深いタイトルです。

 「空を飛ぶ爽快感を追求した、全く新しいアクションゲーム」…

 プロジェクト開始時点から目指すべき目標は決まっていました。しかしそこからが、メイン企画を任された私にとって苦しい日々の連続でした。どんなゲームにするのか、どんな世界観なのか、そしてどんなキャラクターなのか…。『ソニック』の生みの親でもある当時プロデューサーの中さん、ディレクターの大島さんに、何度アイデアを提案しても、なかなか採用してもらえなかったのを覚えています。まだ私の頭の中が、既存ゲームの概念にとらわれていたからです。ゼロから新しいゲームを創り出すということは、まず既存の概念を捨てることから始まるのだということを学びました。プレイヤーに体力はなく、敵に触ってもダメージを受けず、ゴール地点すらない… すべてが「空を飛ぶ爽快感」のために構成された『ナイツ』という独特のゲーム性はこうして生まれました。

 「夢」という世界観のもととなるキーワードは、プロデューサーの中さんのひと言葉がヒントになりました。「飛べない鳥を題材にしてはどうか?」 飛べない鳥が努力し、冒険を進めていくことで、最後に飛べるようになることで感動を生み出す−というのが、その言葉の主旨なのですが、「飛ぶゲーム」を考えている時に「飛べない鳥」という題材を提案された時は、頭の中がかなりパニック状態でした。そんな矛盾するキーワードを結び付けるアイデアなんてあるはずがない…最初はそう自分自身に言い訳をしていましたが、ある晩思いついた「夢」というキーワードがそれを解決したのです。夢を見ている少年少女と、それを手助けするナイツという夢の世界のキャラクター。『ナイツ』を最後までプレイしたことのある人は、この「飛べない鳥」という言葉の重要性を理解してもらえるのではないでしょうか?

 「夢」を描くからには、もっと「夢」について理解し、単なるファンタジーではなく説得力のある本物の「夢」の世界を描こう…そう思って何冊もの書籍を読んで「夢」について勉強したこともありました。夢とは自分自身の無意識から発せられるメッセージで、そこに登場するひとつひとつに意味があるということを知っていましたか?もちろん、『ナイツ』の描く夢の世界も同様です。通常アクションゲームのステージを考える時は、そこでの遊びや仕掛けから考えはじめると思うのですが、『ナイツ』の場合はまず、その夢の持ち主であるエリオットとクラリスの性格や心の様子、生活環境などから考えはじめました。なぜなら、そこに登場するひとつひとつに意味があるわけですから…。こういう『ナイツ』ならではの考え方やこだわりをもって仕事できたことが、今ではとても良い思い出です。

 飛行の気持ちよさを最大限に発揮するために「セガマルチコントローラー」というペリフェラルの設計に参加したり、今回PS2版のリリースとともに復刻する絵本『ナイツ〜翼がなくても空は飛べる〜』の制作にも携わったりと、ゲーム制作の枠を超えた貴重な経験ができたことも、楽しかった思い出のひとつです。

 しかしプロジェクト期間中は、このような楽しかった思い出以上に、やはり辛かった思い出のほうが多かったかもしれません。ブルーチップを集めてイデアキャプチャーを破壊するという基本ルールが出来上がるまでに、何十種類ものルールで試行錯誤を重ねましたし、最初に作り始めたスプリングバレーのマップは何回も書き直しました。試行錯誤を繰り返すたびに企画としての自分の至らなさを悔やみ、「爽快」「気持ち良さ」という明確な定義のない目標を目指すことに悩んだ時期もありました。そんな生みの苦しみを味わったからこそ、『ナイツ』は今でも私にとって特別な存在で、もっとも思い出深いタイトルになったのだと思います。

 長い時を経て、『NiGHTS into dreams...』をPS2版として蘇らせてくれた開発スタッフのみなさん、そしてPS2版開発の原動力となったナイツファンの方々には、本当に感謝しています。当時語ることのできなかったナイツの世界観や「夢」の設定、セガサターンでは表現できなかった数々の”遊び”を、新たな主人公とともに描いたWii版『ナイツ〜星降る夜の物語〜』も11年の時を経てリリースすることができましたので、あわせて楽しんでいただければと思います。

 ひとりでも多くの人の「夢」の中に、ナイツが現れてくれることを願って…